Poderi Aldo Conterno (アルド・コンテルノ) 訪問 1/3
“Giacomo Conterno(ジャコモ・コンテルノ)”と並び称される、バローロ伝統派の最高峰の造り手 “Aldo Conterno(アルド・コンテルノ)”のセラーを訪問した。
1960年代まで、アルドは、兄ジャコモとともに、父ジョバンニのもとでワインを造っていたが、兄が家業を継ぐと、自ら家を飛び出した。
1969年に、モンフォルテ村の “Bussia(ブッシア)”に畑とワイナリーを構え、父親譲りの伝統的な造りを踏襲しつつ、合理的と思える方法は、柔軟に取り入れていった。
Conterno家の歴史に関しては、ジャコモ・コンテルノの記事にまとめているのでここでは記載しないが、一般的に「1970年よりアルド・コンテルノはワイン造りをはじめた」説については、個人的に眉唾ものと思っている。
実際に、1950年代のアルド・コンテルノ作とされるワインも、ヴィンテージ・ワイン市場では稀に見かけるし、僕個人も1964年のネッビオーロを所有していたことがある。
驚愕の「白亜の白」に到着
さて、同社を訪問したのは、2008年8月の暑い日。
“Castiglione Falletto(カスティリオーネ・ファレット)”から “Monforte d’Alba(モンフォルテ・ダルバ)”へ向かっていると、突如巨大な「白亜の城」が目に飛び込んできた。
あたり一面、葡萄の葉で緑色に染まった丘陵の中に、醸造所と呼ぶには、あまりに荘厳な外観。
「ここは、Bussia王国の君主様が住む、城であるぞよ」と、周囲を威圧しているかのようだった。
城門をぬけ、屋敷の入り口まで車を進めると、今は亡き創業者にそっくりな顔立ちのご子息、Giacomoさんが、僕らを出迎えてくれた。
同社は、現在、Franco, Stefano, Giacomo の3兄弟によって、運営されている。
申し訳ないことに、この日の午後の予定を僕ら夫婦を迎えるためだけに調整してくれた、とのことだった。
日本から来た酒飲み馬鹿ップルに対し、国賓級の待遇をしてくださり、僕らは終始恐縮しっぱなしだった。
美酒!美酒!!美酒!!! 豪華なテイスティング
綺麗にグラスがセットされているテーブルに着席すると、Giacomoさんのプレゼンテーションが始まった。
壁に飾られた、ロミラスコ周辺の古地図。伝統と歴史を感じる。
こちらは、バローロ地区に点在するクリュ(畑)の地図。
Bussiaという場所が、葡萄栽培について如何に優れているのかを、この地図を示しながら解説してくれた。
この日テイスティングする、アイテムを目の前で順に抜染。
1アイテム毎にグラスをリンスし、丁寧にサーブしていく。
Giacomoさんは、銘柄ごとに「ファミリーの歴史」「テロワール」「それぞれの銘柄のサイド・ストーリー」等、丁寧に解説してくれた。
こちらが1質問すると、10帰ってくる程、エネルギッシュだった。
ついつい、彼のペースに乗せられ、嘗て日本の某所でグランブッシアを飲んだとき、不幸にも痛んでいたという経験を話してしまったところ、一転、「そんなことはありえない!」「どこのインポーターだ??」「何処で買った?」と矢継ぎ早に質問を浴びせかけられた。
一瞬、気まずい雰囲気になってしまったが、彼等の商品品質に対する、絶対的な自信と信念を垣間見た瞬間だった。
テイスティング・メモ
この日、テイスティングしたワインは以下のとおり。
Bussiador(ブッシアドール)2005
今回の訪問で一番の印象深かったのが、実はこの白ワインだった。
雨が多かった年と言われるが、グラスにねっとりへばり付く程、グリップが強い。
シャルドネ固有の華やかなアロマ、ゆり、アカシア、はちみつ、ミネラル、の香りが、ワインが無くなっても、いつまでもグラスに残っていた。
バリックの香りは、今流行りのワインに比べて、やや強いように感じたが、酒質の良さとうまくあっていて、嫌味な感じは一切く、飲み手に心地よい満足感を与えてくれる。
間違いなくイタリアを代表するシャルドネの1つ。
ワイナリーの成長要因のひとつとなった、アメリカのマーケットを強く意識した味わいのように感じた。
生産本数は、約100,000本。
Il Favot(イル・ファボット)2005
Giacomoさんが、一番気に入っているネッビオーロ。
アルド・コンテルノ縁(ゆかり)の Favot農園の名前にちなんで、名付けられた。
Giacomoさんがまだ子供の時分、農園の方角から自宅の窓へ飛んでくる小鳥に「Favot」と名付けて餌付し、お母さんに「Favotが来た♪ Favotが来た♪」と報告を怠らなかった、という思い出話をしてくれた。
フルーティーで、花の蜜・黒砂糖の香も感じる、若いうちから楽しめるタイプ。
バリックで20ヶ月熟成させることにより、タニックさは抑えられている。
ミネラル感と果実味のハーモニーも絶妙だった。
Barolo 2004
ビッグ・ヴィンテージの凄さを体感できる、衝撃的な凝縮感。
艶々と輝くガーネット色の液体から立ち上る、黒バラ、ピンク・ペッパー、チョコレート、タールの香り。
アフターも長く、とてもリッチな余韻。
複数のクリュのネッビオーロをブレンドしたワインだが、エレガンスと「悠々とした」スケールは、ノーマルクラスとは思えない。
先ほど地図でBussiaの優位性を訴えていたことが、得心できた。
葡萄の質そのものが、他所とは違うんだなぁ……。
Barolo Romirasco(バローロ・ロミラスコ)2004
同社が所有するクリュの中で、もっとも標高の高い位置にある Romirasco 畑。
2004年は、雹(ひょう)の被害により、フラッグシップであるグランブッシアが造られなかったため、このロミラスコがトップのワインとなる。
なによりも、エキスが濃い。 口当たりは、クリームのように柔らかく、なめらか。
ゆったりとした飲み心地に油断していころ、酸とタンニンの収斂が一気に襲ってくる。
2口目以降は、強烈な果実味と酸味が、口の中で破裂するかの如く広がる。
「60年の樹齢」という、Giacomoさんの説明を裏付ける程、複雑な味わい。 ミネラル感も一層強い。
この年の仕込に使った大樽は、まだ若いようで、僅かに樽香が強く出てた。
しかし、年々高騰するグランブッシアに比べれば、このロミラスコは、申し訳ないほどお買い得なバローロである。
Barolo Riserva Granbussia(バローロ・リゼルヴァ・グランブッシア)2000
酸・果実味が桁違いで極度に還元的な状態。
「8年経過しても、エアキュレーション無しでは飲めない」とのことで、Giacomoさん自らが、デキャンタをブン回してサーブしてくれた。
グラスに注がれると次第に広がる、黒スグリ、プルーン、カカオ、オールド・モルト、チョコレート、黒砂糖等、止めどのない香りの嵐。
柔らかくクリームのような舌の触感。 「悠々とした」味わいが、時間の感覚を忘れさせる。
先のロミラスコが、小ぶりなワインに感じる程、2000年のグランブッシアは、全ての要素が圧倒している。
抜栓するタイミングとしては、やや「幼児虐待」とも言えなくもないが、このワインの途方もない可能性を感じずにはいられなかった。
“Poderi Aldo Conterno(ポデリ・アルド・コンテルノ)”では、バリック(小樽)を用いたアイテムは、全生産量に対し10%程度しかなく、残りはすべて大樽熟成によるワインである。
マーケティングと醸造を担当している彼に、幾度も確認したので間違いないと思う。
また、同社は、7~8年周期で絶えず大樽を買い換えている。
バクテリア対策に有効というだけでなく、雑味が無い、アルド・コンテルノ社のワイン特有の「滑らかな舌触り」を生む要因ともなっている。
「差別化」と呼ぶには、あまりに高コスト・採算度外視。 でも、それが何か? という感覚なのだろう。
ここまで凄いと、ただただ唖然とするしかない。